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「B、ブレーキ踏め、ブレーキ」
完全にパニック状態の私。 
 
「先輩、話の前に止めて、ドア開けてください。そうしたら、聞いてもいいですから、先輩の話」Aもすでにパニック状態なのか、大声で叫んでいます。 
 
「この山で、100物語を・・・・」完全にパニック状態の我々三人をしり目に、先輩が、抑揚と感情のない声で続けます。 

「先輩、すみません!!」 

そういって、Bが先輩の横っ面を殴りました。 

キキキー 

急ブレーキの甲高い悲鳴とともに車が止まりました。 
 
シートベルトは着けていましたが、前席に頭をぶつけました。 

「ああ、すまんみんな、大丈夫か?」と、先輩 

周りを見ると、遠くですが、民家の明かりが見え、道の先にある街頭も見えます。 
 
何よりも、ヘッドライトの明かりが見えます。 

『も、戻れた』 

なぜそう思ったかは知りませんが、安堵感と、恐怖から解放された感覚で、全身の力が抜けていくのを感じました。 
 
先輩は、車から降りて、車の前の方を確認していました。 
 
「すまん、目の前を横切った、白い影が見えたもんで。って、どうしたんだ、お前ら?」 
 
車内3人の尋常ならざる雰囲気に、先輩が、質問します。 
 
少なくとも、先ほどの先輩ではなく、何時もの先輩であることに間違えはないようです。 
 
我々3人も外の空気を吸うため車外に出て、落ち着いた後、今までの経緯を先輩に話します。 

「お前ら、俺担いでいるのか?」 

先輩の話だと、山道に入って、「この辺りに神隠しの伝説がある」って話した時、黒い靄のようなものがかかった感覚があったので、 
『眠気に襲われたか?』と思ったら、なんか、白い影が見えたので、急ブレーキを踏んだとのこと。 
 
そう、その後の話は、先輩の記憶にはないのです。 

先輩のはなしだと、確かに、この辺で、明治時代、昭和30年代に、神隠し事件があったこと。 
 
この辺りの伝承だと、夜中に、屋外で、夜が更けてから、夜明けまでの間、百話怪談をすると、異界に行ける。 
 
という伝承があること。 
 
地元の郷土史研究家とかは、戦国や、江戸時代、まだまだ過酷で、飢饉とかに結構頻繁に見舞われていた時代。 
 
(しかも、この辺りは、土地が痩せていて、貧しい地域だったのだとか) 
 
そういう『苦しい浮世を捨て、別世界に行きたい』的な信仰があったから、そんな伝承が生まれたのではないか?と、言っているのだとか。 

で、明治時代の教授(と、その助手たちもいたのだとか)、30年代の大学院生は、それを実行したといわれているのだとか。 

「確かに俺も、その話聞いたときは、やってみたいな、って思った事はあったけど・・・」 

先輩もさすがに青い顔をしていました。 
 
時間を見ると、1時30分過ぎ、山道の入り口は、すぐではありませんが、下に見えました。 
 
そして、車の横には、小さな、石造りの祠が見えました。 
 
皆黙って、その祠にお祈りをした後車に乗りました。 
 
不可思議な体験の後でしたが、なんと言うのか、もう大丈夫という、妙な安堵感があり、恐怖はあまり感じませんでした。 
 

「わり、左の頬が少し痛むんで高速の入り口で運転変わってくれ。」 
 
「あ、ああ、いいですよ、俺が運転しますんで」とB 

その後は何事もなく無事東京につきました。 

が、その後、いくら思い出そうとしても、30話近い怪談話は思い出せません。 
 
最初に話した数話は確かに覚えているのですが、その後、どんな話をしたのかが、まったく思い出せないのです。 
 
が、その不可思議な体験、何よりも、あの真っ暗な光景は、今でもありありと覚えています。 

最近部のOB会で久しぶりに、先輩、A、Bと会いました。 
 
話題になったのは、やはりあの時の不可思議な経験です。 
 
「まあ、ハイウェイヒュプノシスとか、集団催眠みたいな状態だったのかも?」 
 
不可思議な体験を、無理やり説明づけようとするわれわれ。 
 
そんな私たち三人に対し、少々ためらったってから、先輩が 

「実はな、あの道で、最近、失踪事件が起こったんだ。」 

何でも、地元の若者たちの乗った車があの道に入ったのを目撃されたのを最後に、その後行方不明になっている人たちがいるのだとか。