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「・・・・・・という話だ。」 
 
Aが、何度目になるかは分からない怪談を終えます。 
 
『次は俺の番か』どの話をしようか考え始めた時、ふと、先ほどの疑問が頭をよぎります。 
 
あの後、10回、いや20回は、怪談を話しています。合わせれば30回以上は怪談をしていたような気がします。 
 
いや、実際はそんなにしていないかもしれませんが、かなりの回数の怪談を話したのは事実です。 
 
時間で言えば、1時間、いや、2時間はとっくに経過していていいはずです。なのに未だに山道から出ていないのです。 
 
『道に迷ったのかな?』そうも思いましたが、それにしても時間がかかりすぎです。 
 
ここが何処かはわかりません(カーナビもない時代(一応あるにはあったが、学生の車に搭載できるような代物ではなかった)) 
周りは真っ暗。

いや、真っ暗すぎます。まさに墨を流したような暗闇です。 
 
一気に不安が広がります。 
 
「今のAの話で99話目だ。」 
 
「え?」今まで黙っていた先輩が突然口を開いたので、驚いて聞き返す私。 
 
「だから、今のAの話で、怪談99話目だったんだよ。」 
 
「へえ、そんなに話したんですか俺ら。」気軽に受けるB 
 
「案外怪談知っているもんなんですね。」Aも普通に受け答えしている中、私だけが、混乱し始めていました。 

99話、一話3分程として、300分近い時間、つまり5時間は経過しているはずです。 
 
出発したとき1時なのですから、今の時間は、6時近く。 
 
もう、夜が明けていいはずです。

いや、それほどの時間がたっていなかったとしても、高速のインターにはとっくに着いているはずです。 

なのに相変わらず山道らしいところ、というか、何処かすらわからない、真っ暗闇の中を車は走り続けているのです。 
 
恐怖の感覚が私を襲いました。 

「百物語って知っているか?」恐怖にパニック寸前の私をしり目に先輩は話を続けています。 
 
「ああ、ろうそく百本立てて、一話ごとにろうそく消していくって奴でしたよね。」とB 
 
「俺たちそれできましたね。ま、車内で100本蝋燭立てられないけど。」とA 
 
「ああ、で、100本目が消えると、妖怪、幽霊が現れる。」と先輩 
 
「俺たちも蝋燭消していたら、現れますかね?」とB 

『ちょっとまって、ちょっとまって、ちょっとまって』 

先輩の話に、平然と相手をしているA、Bに対して、すでにパニックになりかかっている私。 
 
叫びだしたかったが、恐怖のためか、緊張のためか、声が出ません。 

「ああ、出るかもな。でもさ、実は百物語っていうのは、最初は、真っ暗な中、屋外で、怪談百話を話すものだったんだ。」 
 
「へえ、初めて知った。」とB 
 
「ああ、この辺りでは、少なくともそうだったらしい。
で、100話を話し終わると、妖怪が出るんじゃなくて、そういう物がいる異界への扉が開いてそこに引き込まれる。  
ってものだったんだ。」

先輩が妙に抑揚の、いや、感情のない声で話します。 

「へえ、異界への扉って、漫画みたいですね。」とB 
 
「ああ、で、明治の帝大教授や、昭和の院生も、この地に伝わるその伝説を聞いて・・・」 

「ちょっと待ってよみんな!!」 

やっと声を放つ私。 

「なんだよ、○○ビビったのか?」とA 
 
「そうじゃないよ、先輩、ここどこですか?周り真っ暗、街頭ひとつない、何時になったら高速に出るんですか?」 
 
恐怖でほとんど涙声になっていました。 

叫んでいるうちに気が付きましたが、この車、一度も止まっていません。 
 
いや、よくよく考えてみると曲がった気配すらないのです。 
 
周りは真っ暗、いや、ヘッドライトすらついて居なのです。 
前方も真っ暗な闇です。 

『なぜ今頃気が付いているんだ!!』 

自分に毒づきましたが、このまま先輩の話し続けさせたら、危ない、いや、そんな生易しいものですらなくなる。 
 
なんと言うのか、そんな言いようのない、本能的な恐怖に駆られ、私は、パニックと恐怖で、涙声になりながらもつづけました。 
 
「よく考えろよ。なんでこんな周り真っ暗なんだよ!! 
99話怪談話したんろ?いったい何時間たっているんだよ? 
なのに、なぜ、何処にもつかないんだよ!!」 
 
「もうすぐ着く。いいから黙ってろ。」

抑揚と感情のない、なんというのか、先輩の声ですが、先輩でない誰かが話している、そんな感じの声でした。 
 
「その前に車止めてください!!とにかく!!」 
 
ここで黙ったらおしまいだ。 
 
とにかく先輩にこれ以上話をさせてはいけない。 
 
そんな感じで、絶叫に近い声で、先輩に言いました。 
 
「せ、先輩、とにかく車止めましょうよ。」とB 
 
やっと現状に気が付いたのか、Bも少々あわてた声で先輩に言います。 

「話しが終わったら着くから黙って聞けって。」相変わらず抑揚のない声で話す先輩。